旅の写真が続く中で、「コイツ恵まれすぎだろ。イタリアって天国だわー」とか思う人もいるやもしれません。
そんな儚い夢をハンマーでたたき壊す感じで(爆)、たまにはいつもとは雰囲気を変えて、哀しいイタリアの日常なぞもアップいたしましょう。
というか、一言もの申したい。
誰にって、歯医者に。イタリアの歯医者に。
あの、悪のお代官様に。
長くなるけど、笑って読んでやってください。
さて、皆さん歯医者好き?
いや、嫌いですよね。
歯医者ほど、老若男女から嫌われ、「あそこだけは勘弁!」と避けられる仕事はない。
でも、歯医者ほど、いざ虫歯を治してくれた時に後光が差して神様のように見える人もいない。
イタリア生活も3年ともなれば、歯が痛くなることもあるのです。
あ、ヤバイ、ひょっとして・・・これは・・・イヤイヤきっと気のせいよ・・・まだいける、お前の実力はそんなものではない・・・あ、やっぱりもうダメかも!
そんな葛藤を毎日心の中で繰り返し、こりゃもうダメだ歯に何らかの異常アリだというサイレンが鳴りやまなくなったら、歯医者に予約を入れるわけです。
もともと、非常に残念なことに、モカさんはあまり歯が丈夫ではありません。
頑張っていると歯を食いしばる傾向があるらしく、奥歯を守る大事なエナメルがはがれちゃってるのです。
歯ぎしりの対応策としては就寝時のマウスピースくらいしかないわけですが、歯医者さん曰く「こんだけ噛む力が強いと、マウスピース作ってもすぐかみ砕いちゃうよ」とのこと。
どんだけ食いしばってるんだ私・・・。
落ち着け。まず落ち着こう。いったん深呼吸だ。
ビリーーーブ ユア セルフ!
で、エナメルが無くて虫歯になりやすい体質だったりすると、それはもう風邪っぴきを真冬に裸で放り出すようなものですよ。
完全に真っ裸。
一歩間違えば肺炎にだってなる。下手すれば死んじゃうかも。
ヤダヤダ、そんなヤダもん。
食べるの大好きだもん、自分の歯はちゃんと守りたい!
というわけで、普段から歯のお手入れと「ヤバイ」と感じた時はすぐに歯医者に行くというのが、まぁ鉄則なわけです。
だから在伊3年の間に、片手では足りないくらいの回数、歯医者さんに行きました。
で、イタリア在住者からはよく言われることだけど、イタリアの歯医者ってのは保険が効かないので恐ろしく高額。
嘘みたいだけど、歯の掃除だけで100ユーロ(1万円)とか軽くいくわけ。
それまでどんなに必死に節約生活を続け、1ユーロをケチって暮らしても、一度歯が悪くなったらいっぺんにパー。
そういう理由もあって、歯が痛くなったりすると切なくて切なくて胸が苦しくて、詩の一編くらい余裕で書けそうなくらいメランコリーになります。
有り難いことに、私の歯医者は知り合い料金を適応してくれるので、掃除だけなら60ユーロくらい。
いやいやいや、有り難いって言っても60ユーロはデカいよ?
ちょっとキレイに磨いてもらっただけで、ぼったくりエステ並の仰天価格ですよ。
っていうかそもそも、領収書とかもらったことないんだけど、あれ合法なの?
知り合い料金ってなに??要するに・・・お上に内緒でポッケにしまうたぐいのアレ?
お代官様、これでなんとか。
ふふふ越後谷、お前も悪じゃのーというタイプの、それ?
え、あれ、私いつから越後谷に?
と、軽く考えすぎてしまうくらいに、歯医者は心身ともに、特に財布に、ダメージがでかい。
それでもね、腕が良くてちゃんと歯を治してくれるのなら、まぁこっちにだって払う意志がないってわけじゃない。
なんなら越後谷になったっていい。
歯のない黄門様になるくらいなら、歯のある悪な越後谷の方がマシ。
えーなってやろうじゃないの、越後谷に!!
と決意してですね、コツコツ貯めたへそくりを握りしめて、つい数日前にまた歯医者に出かけたわけです。
(ゴメンナサイ、完全に不法歯医者みたいに書いたけど、本当のところは不法じゃないと思う。けど領収書もらったことは・・・ない。たぶんその辺は友達扱いなんだと思う・汗)
実は8月一ヶ月間、ずっと同じ奥歯がうずいてました。
ヤベーなこれ、もしかしてもしかしてって、ずっと危険を感じてた。
でもどっちにしろ8月は歯医者はバカンス期間でお休みなので、予約の入れようがなく、耐えて耐えて、9月に入ってからTEL。というかSOS。
その間の一ヶ月は不安で不安で、死刑判決を待つような気分。
グーグル先生で「虫歯、一ヶ月放置、危険」とかで検索して、悲惨な目に遭った先輩方の書き込みを見ては、恐怖におびえる日々でした。
まずは数日後の予約を取ったんだけど、その日の間に痛さがハンパなくなったので、慌てて当日の予約に変えてもらい、いざ、親愛なるお代官様の待つ診察室へ。
行ってみたら、見たことない医者も含めて歯医者が三人いました。
「なんで三人もいるんだ・・・」とは思ったけど、悲しさや不安を押し殺してなんとかイタリア語で症状を説明し、まずレントゲン。
医師団の中で一番若いD君が、まずレントゲンを見て「なんも無いよね」と一言。
年長のO氏も、見知らぬAさんも、レントゲンを見て「無いねー」と首をかしげる。
虫歯無いの!?こんなに痛いのに??
無かったんです、虫歯。
どうやら今年の異常な夏の暑さと、ストレスにやられた頭が勝手に痛みを感じてただけらしい。
(実はそういうこと、少なくない。昔から、忙しかったりストレスが溜まると、歯が痛くなるタイプなのです。)
超ミラクルばら色ハッピー!
あぁ神様仏様、私の日頃の行いはそんなに良かったでしょうか?
不幸のどん底から、一気に天国へようこそ。
虫歯じゃないならいいよ、もう帰るよ。
あーあ、心配して損した。
でもそうは問屋が、いや、お代官様が下ろさない。
「無いよねぇ?なんも見あたらないけど?」と言いながらまずD君が先の尖ったかぎ針みたいな奴で奥歯をゴリゴリぐりぐりし始める。
アレですよ、フック船長の手みたいなやつ。
すごく鋭いアレ。
一応D君が、私の主治医的な立ち位置らしい。
O氏もAさんもやってきて、三人がかりで突っついたり叩いたり。
「何かあるとしたら、レントゲンに写らないような奥ってことだけど。それだったら大変だ」と口々に言いながら、例の鋭いかぎ針を歯茎にぶっ刺す。
いーーーーーーたーーーーーーっっっっっっ
痛いですってあーた。
針刺したらそりゃ、健康な歯茎だって痛いですって!!!
「あ゛ーあ゛ーあ゛あ゛ーーー!」
大口開けてるので痛いとは言えない。
のどを奮わせて涙目になって、痛みを必死で訴えます。
日本の歯医者さんみたいに、「痛かったら右手を挙げてくださいね☆ウフっ」みたいな親切はイタリアにはありません。
しかし、D君はかぎ針攻撃をやめない。
むしろ、周囲の関係ない歯茎にまでお構いなしにぶっ刺してくる。
「あ゛ーーー!」
痛くて、自然に頭が反対側へと逃げ出します。
D君「まぁね、彼女は今逃げようとしてるけど、こうやったら誰だって痛いよ。健康な歯だって痛い。正常な反応だ」
正常って!わかってんならヤメナサイよぉ!!!
しかし、正常と確認されたにも関わらず、ここで問題が勃発。
見知らぬ歯科医のAさんがD君に「いや、僕の意見はうんぬん、」と何か文句を付け始めた!
いいよ、いいよ、D君は立派だよ、やるべきことはやったよ。
もう試合終了だよ。
とりあえずその、手に持ったフック船長のかぎ針を下に置こうよ、ね?
モカさんの心の声が叫びます。
文句をつけられたD君、ちょっと不機嫌になって「じゃあ君がやってみろよ。」とかぎ針をAさんに渡す。
(あ、渡しちゃうんだー。)
ぐいぐいぐい
・・・・ !
・・・・
・・・・
あ、ごめんなさい、ちょっと一瞬、返事がないただの屍になってた。
Aさんが文句を付ければD君は更に躍起になって私の歯茎を突き刺してグリグリする。
D君が何か言えばAさんもムキになって同じことを繰り返す。
私が叫んだり逃げだそうとすれば、「ほらね、ココをね、こうすればみんな痛い。(ウギャー!)これが普通だ(ヤメテー!)これも・・・(ヒーー!)ほら、健康な歯だ。」と二人であちこち痛めつけては納得する。
D君は、それまでも私の歯を治療してきたという、主治医としての意地みたいなものがあるらしい。
Aさんが何か言うと、「見てみ?(イ゛ダダダダ!)彼女はね、優秀なの。めっちゃキレイに磨いてるでしょ?この歯の隙間も、(グサっ)ほらね、汚れてない」と、私の名誉を挽回しようとする。
なんていうの?私の歯茎とD君とのこれまでの絆みたいな?
初対面のお前に何がわかる、僕はモカの歯を信じますみたいな?
そういう絆を、いちいち歯茎にかぎ針刺しながら証明してみせようとする。
ダメ、もう、痛すぎてなんか産まれる!
歯と歯の隙間からエイリアン産まれる!!
・・・ちなみに、この歯医者さん、かなり人気で腕が良いと評判です。
予約もひっきりなしに入ってる。
決してヤブではないのです。
だけど、私は知ってるの!!
携帯電話を肩に挟んで、他の患者と会話しながらギュイーンって歯を削ったりするのよ!!本当よ!!
最近、患者をリラックスさせるための小型画面(MTVを流してる)を設置したんだけど、患者じゃなくて医者の方が画面に見とれて、そのままギュイーンってするのよ!
これ以上痛くしたら、私だって黙ってませんからね!
謀反よ。戦争よ!!
しかしその後も、O氏も含めて三人がかりで、様々な角度から突き刺したり氷を当ててみたり、ありとあらゆる方法で「正常な反応」を試し、かわいそうなモカさんの歯はようやく無罪放免となりました。
「お、お代官様・・・じゃないやD君、本日のお礼はいかほど?」
怖々聞いたら、「え、今日はいいよ。虫歯なかったしさー。」とのこと。
あれ、レントゲンも撮ったのにタダでいいの?
いや、親切ではあるんだよね。
悪い人たちじゃないの。それはわかってるの。
怒る気が失せちゃったわ。
勤勉な越後谷は、今回は賄賂として(?)、お金ではなく日本からのお土産を三名に渡して、なごやかに世間話をして帰りました。
というわけで、今回は財布は痛くなかった。
ただ、心と歯茎が・・・傷つけられた乙女のようにむせび泣いていた。
もしかしてタダだったのは、傷つけた慰謝料かしら。
後日談。
「歯茎が弱ってるせいかもしれないから二週間、このジェルを試してみて」と処方されたジェル(一番最初の写真のチューブ)を、毎日歯磨き後に歯茎に塗っています。
でね、気づいたの。
それまで健康だった歯茎が、歯医者後、腫れて痛くなってるやんけ。
そりゃあんだけ、三人がかりで突き刺したりコネくりまわしたりすれば、腫れますよね。
歯の痛みはなくなったけど、歯茎がパンパンだよ。
これも「正常な反応」?
だとしても、
・・・なんか納得いかねー!!!
と、洗面所の鏡に向かってつぶやく今日この頃。
皆さまも長期でイタリアにいらっしゃる時は、事前によぉく歯のチェックをして、こちらで歯医者にかかることのないよう。
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